第11章 inorganic 枢√
喉が渇いたという理由にしては、あまりにも異常な行動だと思う。それを実感した時には私の喉が、ごくりと音を立てた。口いっぱいに広がる鉄の味、これを私は……知識として知っている。
これは、血の味。
「珠紀……っ?」
「んっ……」
まだ、まだ足りない。玖蘭さんの肩を物凄く強く掴んでは、ごくりと喉を鳴らし続ける。私はどうなってしまったの? 今私は……何をしているの?
満たされた。そう無意識に感じた途端、ようやく玖蘭さんの首から離れた。
「はぁ……」
「珠紀、君は……君は"ヴァンパイア"だったというのかい?」
「……え?」
何をおかしなことを。私がヴァンパイアなはず、ないじゃないですか。そう思いながら、口元を拭った時に……袖についたものを視界に入れて、私の視線はその場で固定される。
「……赤い、赤い……もの」
「珠紀?」
「私……私は」
ごりごりの頭の中で何かが痛みと共に、無理矢理流れ込んでくる。あまりの痛みに、私は頭を抱えてふらふらと玖蘭さんから距離を取る。痛い、なにこれ……一体なんだっていうの!
「珠紀っ、落ち着くんだ。大丈夫……大丈夫だから」
それでも玖蘭さんは、私の腕を引いて優しく腕の中へと閉じ込める。
「……私、私は玖蘭さんに……何を、何をしたんですか」
「何でもない。何でもないんだ……大丈夫」
混乱している。だって、この赤いものは……確かに血のはずで。血を啜っていた……それはつまり。そういうことで、でも私にはそんな記憶一つも…………記憶。記憶?
そうだ、私は昔の記憶がない。夢の中へ度々出て来る女性。彼女はやはり私と何か関係があるのだろうか? 思い出せない……でも、思い出さなくちゃいけない。だってそうでなくちゃ、この状況を受け入れることさえ出来ない。