第10章 impulsively 枢√
「眠い?」
「どうして、そんなことを聞くんですか?」
「目がうつらうつら、しているから」
「……そうかも、しれません」
先程の出来事を忘れたいかのように、睡魔は容赦なく私に襲い掛かる。
「全部、全部忘れてしまうといい。錐生君のことなんて、忘れてしまうんだ」
不意におでこに柔らかいものが触れる。薄らと目を開ければ、玖蘭さんが私の額にキスを落としていた。人が目を閉じているのをいいことに……。
「あれ、 目を開けちゃった?」
「そりゃ……」
「眠っていていいよ。次に目を覚ました時は、僕の部屋にいるはずだから」
この人の考えは本当によくわからない。それでも、私はその声に従うように眠りについた。
「珠紀……今はまだ、何も思い出さなくていいんだ」
その言葉は、私の本音を知っているかのように思えて、やけに耳に残った。
夢の、中だ。
『珠紀は好きなの? あの人のこと』
『……それを聞いて、貴方はどうするんです』
またこの人だ。沙耶、お姉さん。夢の中の人、現実にはいない人。私はそう認識している。だって、現実世界でこの人と出会ったという記憶を、私は持っていないから。
『そうね。だったら尚更、貴方は過去を思い出すべきだと思うわ』
『……夢なのに、よく喋りますね』
『あら、夢だからじゃない?』
沙耶お姉さんは可笑しそうに笑っては、私を見つめていた。何がそんなに面白いのか、私には理解できなかったけど。