第10章 impulsively 枢√
「錐生君、珠紀……」
「理事長。もう少し、もう少しだけ……彼をここにいさせて下さい」
「しかし……」
「はぁ、珠紀……君って子は。本当に錐生君が大事なんだね」
零越しに、玖蘭さんを視界に映した。優姫を保健室に置いて来たっていうの? あんなにも優姫のことばかり気にかけていたはずの、彼が?
信じられない、という瞳で見つめていると玖蘭さんは不愉快そうに言い放つ。
「錐生君、珠紀を離してくれないかな? 君は……理事長と一緒に行くんだ」
零はまるで従うように、ゆっくりと私を離す。その瞬間に、小さく「ごめん」と呟きながら。
「錐生君、行こうか」
「……」
彼は何も言わず、今度こそ理事長と一緒に去っていく。あまりにも零の後ろ姿が儚げで、追いたい気持ちが膨らむ。
「珠紀、おいで」
「……玖蘭さん」
私をふわりと抱き上げると、私の自室とは別方向へと歩き出した。
「玖蘭さん……そっちは、私の部屋とは違います」
「君を今一人にさせたくない。これは僕のエゴだ」
優姫の方が大事な癖に……。
心の中で、悪態をつく。私がどんなに玖蘭さんのことを思い浮かべても、もっと一緒にいたいなんて思ったとしても。優姫には何もかも敵わないんだと思う。玖蘭さんに大事にされているのは、優姫の方。
妬ましい。妬ましい……でも、優姫が零の傍にいないのなら、逆に私が零の傍にいてあげなくちゃ。そう思った。