• テキストサイズ

Bloody Signal

第10章 impulsively 枢√



「今目の前で起きていること、もう忘れてしまいなさい」

「理事長?」

「珠紀には……そのままでいてほしいから。きっと枢君もそう思っているはずだよ」

「私は零と優姫の友人です! 幼い頃からの……っ」


 まるで私だけ蚊帳の外へと追い出すように。

 零を支えて、理事長は私を置いて歩き出す。


「きっとすぐ枢君が来る。一人にするのは嫌だけれど、僕は僕で錐生君をこの場から連れて行かなくちゃいけない。他の人に見られてはいけないからだ。わかるね?」

「はい……」


 何も言い返せなくて、俯いた。


 一人の時間が訪れる、理事長達の足音が遠くなっていく。けれど、すぐに焦ったような理事長の声が聞こえてきた。


「こら! 錐生君!!」


 何かあったの? 顔を上げて、二人の方へと顔を向ければ零が苦しそうな顔で、今にも泣き出しそうな顔で、私の元へと走ってきた。


「珠紀っ、珠紀……っ」

「零? どうしたの?」

「……珠紀っ」


 零はただ私の名前を繰り返し口にしながら、ぎゅっと抱きしめた。まるで子供が縋りついてくるみたいな感覚を覚えて、自然と恐怖心はなかった。

 ううん、だって私は零のこと怖くないもの。大丈夫。彼は私の……ヒーローだから。

 私達の姿を見た理事長は、驚いたように立ち尽くしていた。


「零……痛いの? 苦しいの?」

「珠紀、珠紀、珠紀っ……」


 零も、一人は嫌だよね。

 置いて行かないで、連れて行かないで。そんな感情が彼の体温から伝わって、優しく背中を撫でた。

 きっと彼だって怖かったんだ。そう、思えた。

/ 276ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp