第9章 mutate 枢√
『別に変わらなくてもいいのよ。貴方は、そこに一人で座り込み続けるだけだから』
『他の人は……?』
『他の人は変わっていくでしょう? 貴方は置いてけぼりよ』
変わらないということは、立ち止まること。それは……変わっていくことを受け入れた人達に、置いて行かれるということ。
『置いて行かれたく……ない』
一緒に居たい。
傍に、居たい。
玖蘭さんの……傍に。そして、優姫達の近くに。
『じゃあ、変わらないとね。自室の机の引き出し、二番目。鍵は本棚の上』
『どうしてそんなこと……知ってるの?』
『さあ?』
彼女は笑って「またね」と呟いた。また……会うことなんてあるのだろうか? 夢なのに? その言葉を聞くと、私の意識はふわりと浮上した。
目が覚めた時には、既に自室にいた。おかしいな……しかも夜。
「誰かが、私をここまで運んでくれた……とか?」
服はそのまま制服を着ていた為、すぐに私服へと着替える。なんだかもう一度眠る気になれない……。夜に自室を抜けるのはいけないんだけど……何故か今日は部屋に留まる気になれなかった。
「……空気が、冷たい……」
部屋を抜け出して徘徊し始める。そうだ、先程見た夢……もう一度理事長に話してみるのはどうだろう? 駄目かな……またはぐらかされるだけか。
廊下を歩いて、ふと階段に差し掛かる。
「……え?」
急激に血の香りが充満する。これは、何? 何が起きてるの?
「零……優姫?」
私の声に反応し、二人が私へと視線を向ける。優姫は首元を押さえながら、零は……。
「零、その牙と血は……何?」
彼の口元を汚しているのは、何?