第9章 mutate 枢√
先の事なんていくら考えても、どうしようもない。どうしようもないくらい、変化は訪れていくから……。
また、あの木漏れ日の下。
『また、会ったのね』
次に会った時の私は、幼くはなかった。今の私だった。変なの。
『……沙耶、お姉さん』
『無理に思い出さなくてもいいの。でも……今のままじゃ、貴方は彼と一緒にはいられない』
『彼……?』
『貴方が今、思い浮かぶ人のこと』
そう言われてふっと浮かんだのは、玖蘭さんの顔だった。どうしてすぐに彼の顔が浮かんだのだろう。
『なんで、そんなことを言うんですか』
『……さあ? どうしてだろうね。お姉さんは、君にお節介をやくのが好きだからかも』
彼女は笑う、花のように。
『いつになったら、思い出すの? 珠紀ちゃん』
『……何を、思い出せばいいんですか』
『貴方の心は、しっかりと覚えているはずよ。あの日の……夜の事』
彼女の瞳が、赤く光る。綺麗に笑う彼女だったが、明らかなに違和感のある笑みだった。それはたぶん……彼女がちらりと見せた牙が、私の視界に入ってきたから。
『……沙耶お姉さんは、もしかして……』
『貴方が知りたくないなら、そのままでいいの。思い出さなくていいのよ。嫌なことなんて全部、忘れてしまいましょう? 穏やかな記憶にだけ包まれて、優しい彼に触れながら一緒にいられない現実をじわりじわりと実感して。ね?』
『……変わらないと、いけないんですか?』
ずっと、誰かにそう言いたかったのかもしれない。
変わっていく私以外の全てを見て、変わらないことは罪なのかと何処かで思っていた。だから確認したかった。私も皆みたいに変わらないと駄目? 今のままじゃ、駄目?