• テキストサイズ

Bloody Signal

第9章 mutate 枢√



「その瞳……どうしたの」

「っ……!! 見るなっ!」


 零は私を離すと顔を背けて俯いた。ぐっと自らの胸元を掴んで、荒く息を繰り返す。触れてしまっていいのだろうか? そっと手を伸ばそうとするけれど、今の私が彼にどんな言葉をかけてあげればいいのかわからない。わからなくて、手は居場所を失い彷徨う。

 一呼吸おいて、ようやく彼の肩を掴んだ。


「ごめん、怖がったりして……ごめんね。大丈夫、私は零の事もう怖がったりしないから……ごめん」


 そうして今度は私から、彼を抱きしめた。


 何も知らない、そう何一つ。彼の過去なんて知りもしないし、出会った時には今と変わらない仏頂面を引き連れて、優姫に世話をしてもらっている印象しかなかった。彼も何一つ語ろうとしなかったし、私も……自分の過去は語れる程覚えていなかったから。

 ならこのままただ普通に、一緒に時を過ごして行けばいいと思った。

 深くはわからなくても、それでも……いいと。


「……俺に……っ、触れないでくれ。お前に触れられると……俺はっ」


 泣いているような声に聞こえたのは、きっと勘違いだろう。私の肩は彼の涙で濡らされることはなかったし、彼が鼻をすする音も聞こえてこない。

 言葉とは裏腹に、零は躊躇いがちに私を抱きしめ返す。


 変わっていくことを恐れた。

 それでも私は無情にもこの身で知っていく。


 もう、今までと同じではいられないのだと。






 少しして、零が私の身体をぐっと押したので、その力に任せて私はようやく彼を離した。零は俯いていたから、どんな顔をしているのかわからなかった。

/ 276ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp