第9章 mutate 枢√
「零はどうしてあんな場所にいたの……?」
「別に」
「……学校に来ない間、何をしていたの?」
「なんでそんなことが気になるんだ。お前は優姫か」
「優姫にも同じことを聞かれたの? 当然だと思うよ、だって私も優姫も零のこと心配していたから」
「そんなこと言って、俺のいない日常にいずれは慣れていく」
「……慣れたくないよ!」
思わず大きな声が出る。零が足を止めたので、私も自然と止まる。なんでそんなことを言うの、私はいつまでも優姫と零と一緒に学校に通っていたいのに。どちらが欠けたって嫌なのに……。
ふと零に視線を向けると、身を屈めていた。彼の呼吸が乱れていることに気付き、慌てて顔を覗き込んだ。
「零!? どうかしたの!? 苦しい、の?」
「くっ……煩い、少し……黙ってろ……っ」
「り、理事長呼んできた方がいい!?」
「……! 行くなっ!!」
理事長のところへ駆け出そうとした私を後ろから抱きしめた。
「零……離して、助けを……」
「大丈夫だから……っ、黙ってろ」
全身に零の体温が伝わってくる。乱れた息も、彼の苦しそうな声も。
どうして私は何も彼にしてあげられないの?
「ねぇ……零……」
「……っ」
「本当に大丈夫な……の……」
抱きしめる力を彼が緩めたので、様子を伺おうと振り返る。信じられない光景が映って、思わず足がすくみそうになる。
――赤い、瞳……っ!
そんなはずがない。だって零は確かに人間のはずで……私と優姫と何も、何一つ変わっていないはずで。それでも……目の前の光景は現実だ。嘘偽りない現実だ。身体に感じる彼の体温が、私に嫌というほどそれを教えてくれる。