第9章 mutate 枢√
「帰るぞ」
「零……っ、最近どうしたの? 学校にもろくに顔を出さないし、風紀委員の仕事にも顔を出さないって優姫が言ってたよ。何かあったの? 私でよかったら……相談、乗るよ?」
「珠紀には関係ない。俺のことは放っておけ」
「いつも零は私のこと助けてくれるけど、私は零に何もしてあげられてない。ねぇ、私にも何かさせてよ……!」
「お前は何もしなくていいんだ。お前は……ただ優姫と笑っていればいい」
ぐっと、掴まれた手が痛い。まるで零の思いが反映されているみたいに思えて、振りほどくことは出来ない。この手を離してしまったら……零は本当に何処かに行ってしまう気がしたから。
零は不意に何処かへと視線を巡らせている。どうかしたのだろうか?
「零?」
「……視線を感じる。気持ち悪い……行くぞ」
「えっ……あ、うん」
視線? そう……かな?
私は零に連れられて歩き出した。
◆
月の寮の一室。部屋の窓から二人を見つめていた枢は、目を細めた。
「枢、お見送り?」
「一条か……」
「さっき珠紀ちゃんが凄い勢いで月の寮を飛び出して行ったけど、何かあったの?」
「別に何もないよ」
「……あまり、珠紀ちゃんを困らせないようにね」
一条も枢と共に去り行く二人を眺めている。枢は小さく溜息を漏らすと、徐に口を開いたのだった。
「僕がいつ珠紀を困らせたって言うの」
「珠紀ちゃんが感情を乱すのは……枢に関することくらいだからね」
「そんなことないよ。珠紀は……とても錐生君を大事に想っているみたいだからね」
「そうかな? ただの仲のいい二人にしか見えなかったけど」
二人の姿はもう、窓からは見えなくなっていた。