第9章 mutate 枢√
呼吸が止まる程こんなにも玖蘭さんが近いのに、私の心は別のことを思い始めているなんて。玖蘭さんの手が私に触れる度に、思い知らされるような気がした。この人は本気で……そう言っているのだと。
「……離して下さいっ!」
全ての力を使って玖蘭さんを押し退けた。あっさりと退いた玖蘭さんを横目に、私は距離を取った。
「珠紀……」
「失礼しますっ!!」
玖蘭さんの顔が見れない。私は彼の部屋を勢いよく飛び出した。
逃げるように月の寮から出ていく。途中、誰かとすれ違った気がするけど私は知らない顔をして走り続けた。
月の寮から出たと同時に、息が苦しくて堪らなくてすぐに足を止めた。
「はぁ……はぁっ」
ふと顔を上げた先の木に、寄りかかる様に目を閉じている零を見つけた。
「零……?」
「……珠紀か?」
一拍遅れるように反応を示した零は、心底驚いた表情で私を見た。近付いていいのかさえ、私にはわからないけど……ゆっくりと零の傍まで歩み寄った。
「なんでお前がこんなところにいる。ここは月の寮がある場所だぞ。門を……わざわざくぐってきたのか」
「玖蘭さんにお茶会に招待されて……それで」
急に零は立ち上がると、私の手を掴んだ。
もしかして……怒ってる?