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Bloody Signal

第8章 inside 枢√



「あの日君にした質問を、もう一度今、するよ」


 ぐっと肩が押され、重力に従うように私の背中は柔らかなソファーの感触を得る。玖蘭さん越しに、天井が見えた。


「玖蘭さん……」

「僕が怖い? 怖く、ないの?」


 目を逸らすことが出来ない。とても真剣で、玖蘭さんの瞳はゆらゆらと波のように揺れていた。


「怖く……ないです」

「どうして?」


 あの時の私は、曖昧な答えを返すことしか出来なかった。でも、今はどうだろう? 心の中にある一つの答えを引き出して、私はそっと口にする。


「玖蘭さんの私に触れる手が、暖かいから……」


 触れる瞬間、冷たいと感じることはある。けれど次第に熱を帯びて、それがじんわりと私の中に流れ込んでいく。同じではない、けれど私も彼も同じ体温を持って生きている。同じだけの熱を、持って。


「……珠紀」


 玖蘭さんは私の首元に顔を埋める。もしかしたら、噛まれるのでは……と思ったけど、すり寄るかのようにただ顔を埋める玖蘭さんに、私は無防備なまま。


「君は不思議な子だね。優姫とは、まるで違う……でも、嬉しいと、思う」

「……」

「逃げないんだね」

「逃げる必要は……ないと思ったので」

「嘘。少しくらいは噛まれるんじゃないかと思った癖に」


 まったくもってその通りだ。見透かされているんだな、と感じるだけで私の淡い想いさえも筒抜けになっているのではないかとさえ思える。それを知ってか知らずか、玖蘭さんはそっと私の首元から離れていった。


「もっと、僕だけを見て。一条じゃなくて、僕を」

「どうしてそこで一条さんが出てくるんですか」

「だって……最近の珠紀は、一条と仲がいいみたいだから」


 もしかしたら、一条さんが最近よく会って話すことを玖蘭さんに言っているのかもしれない。そうではないと、わからないことだよね?

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