第8章 inside 枢√
」「はい、あーん」
「えっ」
「あーん」
「……あーん」
恥ずかしい。顔から火が出るとはまさにこの事。
もぐもぐ。チーズケーキも美味しい……そして玖蘭さんは何とも満足そうに私を見つめている。お返しに、と私も一口分をフォークに乗せて玖蘭さんの口元へと運んだ。
「玖蘭さんも、はい。あーん」
「え、僕も?」
「あーん」
「はいはい。あーん」
フルーツケーキが玖蘭さんの口の中へと消えていく。玖蘭さんは「美味しい」と一言告げて私に笑いかけた。変なの、こんな時間。
ヴァンパイアであるはずの彼らと、こうして太陽の光が差し込む部屋の中で、テーブルを囲んで優雅にティータイムだなんて。そう、まるで夢みたい。もしかして私が都合よく見ている夢だったりして?
確認のため、自分の頬をつねってみた。うん、痛い。
あらかた散らかしてしまったけど、そこは一条さんが有難いことに片付けをしてくれている。千里も一条さんを手伝いに、席を立った。
今ソファーに座っているのは、私と玖蘭さんだけ。
「どうだった? 月の寮でのティータイムは」
「凄く楽しかったです!」
「気に入ってくれたみたいで嬉しいよ。今度は優姫とおいで」
「……はい」
ちくり、胸が痛くなった。玖蘭さんの口から、優姫の名前を聞いただけなのにね。おかしいな。
「浮かない顔になったね。どうかした?」
「いえ……その、そろそろ寮に戻ろうかと」
「もう少しゆっくりしていってほしいな。二人きりで、もう少し話をしたいし」
思いの外、玖蘭さんの眼差しが真剣だったから……私は三度瞬きを繰り返した。二人きり……? 私と玖蘭さんが、二人きり? そこまではいいとしても……玖蘭さんの自室で? 思考がそこで止まったように思えた。