第1章 call
「……こんにちは」
自然と距離が縮まり、彼は顔を上げ微笑んだ。私も慌てて「こんにちは」とぎこちなく挨拶をした。まったくの初対面の相手に、こうも柔らかく微笑まれたのは優姫以来かもしれない。
「夜間部がどうしてここにって顔をしているね。安心して、理事長に呼び出されて用事を済ませてきたところなんだ」
「理事長に……ですか?」
理事長に呼び出されるって、この人何したんだろ……怖い人なのかな。
じろりと相手を観察してみる。漆黒の髪にダークレッドの瞳。整った顔、直視するのが難しい……。
「僕は玖蘭枢。君は?」
「……時東珠紀、です」
彼は「いい名前だね」と呟くと、また笑いかけた。
「珠紀はもう帰るのかい?」
「え……そうですけど」
何かまずいのだろうか?
私が玖蘭さんの様子を伺っていると、彼はふと思い出したように声を発した。
「ああ……ごめんね、こういう感じ初めてだったから」
「え?」
「普通科の女子生徒に会うと、よく囲まれて身動きが取れなくなるから……珠紀みたいは反応は初めてで、少し戸惑ってしまった」
「そうですか? 他の子達が……浮ついているだけです」
なら私は浮ついていないというのだろうか。少なくとも、彼としっかり目を合わせて話せない時点で、心臓がドキドキしていることに気付く。これだって、一種の浮ついて心の現れなんじゃないのだろうか。困った。