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Bloody Signal

第8章 inside 枢√



「ぶっ……!」

「おや? 珠紀。理事長室に用事だったのかい?」

「……! 玖蘭さんっ」


 どうやら私がぶつかってしまった相手は、玖蘭さんだったようだ。慌てて玖蘭さんから距離を取れば、私の動きがおかしかったのか玖蘭さんはくすっと笑った。


「どうしたの、そんなに慌てて。僕でなければ、危なかったかもしれないよ」

「ご、ごめんなさい……」

「……浮かない顔だね。何かあったの?」

「……」


 何も答えられなくて、黙って俯いた。玖蘭さんは私のこと、何も知らないしそれなのに急に変な話をされても迷惑だろうと思った。いつから……臆病になったのかな。


「言いたくないならそれでもいいけど、僕は知りたいな。君が俯いている訳を」


 玖蘭さんは優しく私を抱きしめて、背を撫でてくれる。全身に伝わる彼のぬくもりに、身体を預ける。

 言ってもいいの? 話しても、いいの? 頼っていいの?


 沢山の思いが一気に溢れて、言葉に詰まってしまう。感情のままぶつけられたらどれだけいいのだろう……。


「そうだ、月の寮においで。今日こそお茶を御馳走するから」

「……迷惑じゃ、ないですか?」

「そんなことないよ。迷惑だったらまず誘わない」

「お邪魔して、いいですか?」

「勿論」


 そう玖蘭さんは笑って、私の手を引いた。


 最近の私ときたら、いつも玖蘭さんに手を引かれて歩いている気がする。一人で進めなくなったらどうしよう、なんて心配は特にないけれど。玖蘭さんの背中ばかり見て、過ごしている気もする。背中が好き? そんな趣味私にはありません。

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