第8章 inside 枢√
「黒主さん!!」
「ど、どうしたの珠紀。急に大きな声を上げて飛び込んできて。もうっ、お父さんでもいいのにっ」
「……それは嫌です」
「素直じゃないんだからっ」
相変わらず椅子に座って、頬杖をつきながら私を楽しそうに見つめていた。
「実は、少し聞きたいことがあってきました」
「なんだい?」
「……夢を見たんです。何処かの建物が、赤く……燃えている夢。森を抜けた場所に、それはありました。私は焼け落ちる建物に向かって、お父さん、お母さんと叫んでいました。もしかして、私がなくした過去の記憶に関連していることなんですか!?」
「珠紀……」
黒主さんは驚いた表情を見せるけど、すぐに柔らかく微笑んだ。
「夢は夢だよ、珠紀。確かに幼い頃、君は両親を失って僕が拾い育てた子だ。それは以前にも話したはずだよね? 君が……僕に着いて来てくれるのを条件に」
私が一番最初に目が覚めて、自分を覚えていた古い記憶は白い部屋の中。病院だった。傍にいてくれたのは、お父さんでもお母さんでもなかった。見知らぬ男の人。それが黒主さんだった。
この人は私に着いてくるか、ここで一生を過ごすかと聞かれた。そして、両親はいなくなったと聞かされた。詳しいことは教えてくれなかった。ただ……選ぶしかなかった。
「わかってます……。でも私は両親がどうしていなくなってしまったのか、知りません。生きているのか、死んでいるのかさえも!」
「落ち着くんだ、珠紀。大丈夫だから……」
「何が大丈夫なんですかっ!!」
私が何度尋ねたところで、きっとこの人は教えてくれる気なんてないんだ。
「珠紀っ!」
私は理事長室を飛び出した。途端、柔らかい感触に衝突するような感覚を覚えた。