第7章 Dissonance 枢√
「珠紀ちゃん本好き? だったらこれとか、面白いよ。僕なんて何十回も読んじゃったんだから」
「……不思議のアリスですか」
「僕もアリスになって不思議の国を冒険したいよね」
「(一条さんがアリスか……)」
想像したら逞しいアリス像が浮かんできたので、やんわりと断りを入れて本を返した。
まだお昼頃。窓からは雲から顔を出した太陽の光が、眩しい程に差し込み始める。
「珠紀ちゃんは、枢のこと……どう思う?」
遠くで本鈴が鳴る。わかっている、行かなくてはいけないことくらい。でも……私は一条さんをじっと見つめたまま、返す言葉も見つからずただ動けずにいた。
一条さんは先程の陽気な笑顔とは裏腹に、真剣な表情で再び尋ねてきた。
「もし興味本位で枢に興味を持っているんだとしたら、やめてほしいんだ」
「……興味本位で近づいているように、見えているんですね」
これは忠告だろうか。
「そうとまでは言わない。でもね、君と僕らはけして相容れぬ関係だよ。わかっているだろう? ヴァンパイアと人間が共に暮らしていくには、まだまだ時間が必要なことくらい」
「……私が皆さんの正体を知っていること、玖蘭さんから聞いたんですか?」
「……ごめんね」
それは何に対してなのか、聞いてもいいのかな。私は俯いて、一条さんの視線から逃れようとする。
興味本位、好奇心。確かにその通りなのかもしれない……それでも。