第6章 moon 枢√
「どうする? 寮に戻るなら送るよ」
「いえ……一人で帰れます」
「でも……」
「珠紀、また倒れたの?」
びっくりした。聞き慣れ始めた声が、保健室に響く。一条さんも一瞬びっくりしたのか、肩をびくりと震わせていた。でも、二人して扉の方へ視線を向ければ玖蘭さんが立っていて……一条さんは「なんだ」という顔を見せた。
「枢、よくここがわかったね」
「まぁね。一条が珠紀を運んでくれたんだね」
「そうなるかな。さてと……じゃあ、僕は退散するとしようかな」
「え?」
私がきょとんとした顔で一条さんを見ると、彼は悪戯っ子のように微笑んで小さく私の額にキスを落とした。
「……っ!?」
「ふふ、珠紀ちゃん顔真っ赤。それじゃあ、夜以外ならいつでも待ってるからね」
風のような速さで、一条さんは玖蘭さんを通り過ぎて保健室を出て行った。
「一条と、何を話していたの?」
玖蘭さんは私がいるベッドまでやってくると、脇に座って私の髪を撫でた。彼の瞳が、今は私だけを捉えていると思うと嬉しいと感じる自分がいる。どうして……?
「色々話していました。一条さんが一方的に話をしてくれていましたけど」
「ふぅん……楽しかったのかい? 顔が綻んでる」
「わかりますか? はい、凄く楽しかったです」
一条さんの話は意外にも、飽きない話が多くてつい聞き入ってしまった程だ。思い出し笑いがこみ上げた時、玖蘭さんは私の髪を一束掬い上げると優しくキスを落とした。
「く、玖蘭さん……っ!?」
「……妬けてしまう」
「え?」
「一条と居るほうが、珠紀は楽しいの……?」
えっと、それは……どういう意味なのでしょうか?
本当にわからなくて首を傾げると、玖蘭さんの目を細められた気がした。
「明日、夜以外で月の寮に遊びにおいで。僕が君にいろんな話をしてあげる。夜間部のことは知らないことが多いだろう? 教えてあげるよ」
「いいんですか……?」
「まさか、一条の誘いは受けておいて、僕の誘いを断ったりはしないよね?」
強い眼差し。有無を言わさぬ物言いに、私は思わず息を呑んだ。