第6章 moon 枢√
「枢、先輩……?」
ふと、扉の方で声が聞こえる。この声の主は……。
「優姫、どうかしたの?」
優姫だ。それがわかると瞬時に玖蘭さんは、私に触れていた手をひっこめた。わかりやすいなぁ……。
「えっと、その……ドレスのお礼を」
「そう。珠紀、悪いんだけど優姫と二人きりにしてもらっていいかな?」
「わかりました。それでは」
会釈して、優姫の横を通り過ぎる。彼女の視線が私に向けられているのを知っていて、敢えて何も言わず目も合さずテラスを出て行った。
会場内は相変わらずの喧騒で、目的を果たしてしまった今……もうここには用がない。
――いっそのこと、帰ってしまおうかな。
……玖蘭さんは優姫と、何を話しているんだろう。
「……眠い」
突然、ぐらぐらと目の前が揺れ始める。
「君、大丈夫?」
「え……?」
声をかけられ、咄嗟に顔を上げた。綺麗な人だ……金色の髪が印象的な男の人。それを確認するや否、私の意識は徐々に失われいく。
ああまずい、零に注意されたばかりだというのに。
「すみ……ません、私を会場の外に……連れ出して、くれませんか」
何処の誰かはわかりませんが、お願いします。出来るだけ私を、会場から離れた場所へ……。
「……保健室、でいい?」
「はい……」
この時間に開いているものなのだろうか?
浮遊感が襲う。抱き上げられでもしたのだろうか……確認する余裕もないまま、私はいつもの突発的な眠りに誘われ意識を落とした。