第6章 moon 枢√
「あの、私……大丈夫ですから」
「嫌だ。君が風邪を引いたら優姫が心配するだろう?」
また、優姫の話。玖蘭さんがどれだけ彼女を大切に想っているのか、私には到底わかりそうにない。彼の口から優姫の名前を聞く度に、胸の辺りがちくりと痛む。理由は、わからないけど……。
「自力で治せますから、平気です」
「風邪を引いた時は僕が看病してあげるから、何も問題ないね」
「問題大ありです……玖蘭さんは女子寮に入れませんよ?」
「……しまった!」
どうやら、彼は少々天然なところもあるみたいです。
完全に夕陽が沈んだ頃、玖蘭さんは胸元にある白薔薇に触れながら、話しかけてくれる。
「珠紀はどうして、僕に花を贈ってくれたの?」
「え……?」
「僕が選んで、なんて言ったから……同情で贈ってくれたとか?」
「そんなんじゃないです! 誰に贈りたいのか……それを考えた時、ぱっと玖蘭さんの顔が浮かんだんです」
それは本当である。千里と零から貰った花のことを考えている時も、私にはどうしても玖蘭さんの顔が頭から離れなかったのだから。
いつも何かと気にかけてくれて、初めて会った時も目の前で倒れた私を、寮まで送ってくれた。それは全て優姫が私を大事に想ってくれているから、自分もそうしているだけだと言っているけど……それでも、嬉しいんです。
「……そんなことを言われてしまうと、僕は君に花を贈った人達よりも特別なのかと期待してしまうよ?」
「期待しても、いいですよ」
「悪い子だ」
玖蘭さんは再び私の頬を撫でた。心地よい……このまま時間が止まってしまえばいいのに。