第6章 moon 枢√
「嫌いではないよ」
「好きでもないんですか?」
「じゃあ、珠紀は昼と夜どっちが好き?」
「……朝も昼も眩しいので、夜が一番好きです」
「そう。僕も好きだよ、夜」
嫌いじゃないって言い方をした癖に……。
どっちなんだ、と言いたいところだけど目的を忘れてはいけない。手の中にある白薔薇を潰さない様に、そっと握る手を強めた。
「あの……!」
「なんだい?」
「う、動かないで下さい……」
玖蘭さんの胸元に先程まで飾っていた赤薔薇はない。今は私の髪に飾られているから。そっと、赤薔薇の代わりのように白薔薇をさす。
白い制服に白薔薇は、あまりにも不釣り合いで……失敗したかなぁ。
「ごめんなさい、やっぱり赤薔薇の方が似合いますね」
「……僕にくれるの?」
「え? あ、はい」
玖蘭さんは少し考える素振りを見せた。けれどすぐに顔を上げて、私に笑いかける。
「珠紀……ありがとう」
――玖蘭さんも、こんなに嬉しそうな顔……するんだ。
彼に魅入っていると、強い風が私達の間をすり抜けていく。
「珠紀、風邪を引いてはいけないから着ているといい」
「これ……玖蘭さんの上着じゃないですか」
玖蘭さんは何を思ったのか、自らの上着を私にかけてくれた。暖かいけど……これじゃあ、逆に玖蘭さんが風邪を引いてしまうのでは?