第5章 gift
「スミレの砂糖漬け。瓶ごとあげる」
「え!? び、瓶ごと……? でも、こんなに貰うのは悪い気が……」
「どうせ俺、珠紀以外にはあげるつもりないし。いいんじゃない? 全部受け取っておけば」
「え……?」
それはどういう意味でしょう?
聞く暇もなく、千里が不意に私へとぐっと近づいた。顔が近いっ、無防備な彼の顔が近づいたと思えば、耳元で囁かれる。
「You occupy my thoughts(あなたのことで頭がいっぱい)」
「千里? な、なんて言ったの……?」
「さあ? 知らない」
ふっと千里が笑った。
ん? 千里が? 千里が……笑った?
「……っ」
「あれ? 顔赤い」
すぐにいつもの無表情へと戻ってしまう。千里の笑った顔は、綺麗で可愛くて……動揺が隠せない。
「スミレの砂糖漬けなんて初めて見た……」
「そう? 別に珍しいものでもないよ。花の砂糖漬けなんて」
「花の……」
花? そういえば、スミレは花の一種だ。あれ……?
「ねぇ、千里もしかしてこの砂糖漬け……」
「花を贈る形って、なんでもいいと思わない?」
「っ……!」
千里は小さく「待ってる」と呟いて、私を置いて喧騒の中へと消えていく。呆然と私は、その場に立ち尽くしていた。手には千里から貰ったスミレの砂糖漬け瓶。髪には玖蘭さんから貰った赤薔薇。
そして、誰にも贈らずに未だ私の手の中にある、一輪の白薔薇。