第5章 gift
「あ、時東さん。玖蘭さん見なかった?」
「……いえ、知りません」
……咄嗟に嘘をついてしまった。私と彼だけの秘密、なんて考えてしまった……いけない子だ私は。
女子生徒達は私に興味を失ったらしく、会場内を探しに去っていった。
「まだ、心臓が煩い」
鼓動が早い。胸に手を当てれば、どくんっと高鳴る。赤い顔を誰にも知られたくなくて、手の冷たさで頬の熱を奪おうと試みる。はぁ、心臓に悪い……。
「何してるの? 珠紀」
「あっ、千里……」
手にお菓子を持った千里が、可愛らしく首を傾げてやってきた。あれ? その他に小さな瓶を持っている。なんだろう……というか、千里は花を持ってないということは、誰かに贈ったのかな。かっこいいし、当然だよね。
「その薔薇」
千里の視線が髪に向けられる。ああ、これは先程玖蘭さんから貰ったもの。
「玖蘭さんに貰ったの」
「へぇ……あの玖蘭寮長が? 意外」
「私もそう思う。優姫に贈ったとばかり思っていたんだけど……彼女には贈らなかったみたい」
「え? そうなの? 更に意外……」
表情が豊かなわけではない千里でさえ、わかりやすく驚愕の表情を見せた。そんなに玖蘭さんが優姫以外の女の子にこんなことをするのは、珍しいのかな。だとしたら、嬉しい……ような。
「珠紀これ、あげる」
「それは何?」
先程から手にしていた透明な瓶。中には……紫色の物体? ううん、ちょっとよくわかりません。