第5章 gift
「玖蘭、さん? 今何を……」
「君の綺麗な漆黒の髪によく似合うね。制服なのがとても残念だけど」
「……ドレスなんて洒落たもの、持ってないので」
「今日はどんなお洒落も許されるというのに、勿体ない。知っていたらドレスくらい、プレゼントしたのに」
「男の人にドレスをプレゼントされる義理はありません……」
「おや、僕の心からの思いでも受け取ってはくれないと?」
「優姫にあげたらいいと思います」
「彼女には既に贈ってある」
やっぱり……。玖蘭さんにとって、優姫はそれだけ特別で大切なんだろう。あの時の言葉通り。
「なら、この薔薇も優姫に贈ればいいのでは……」
「珠紀はこうして繋ぎ止めておかないと、僕を意識してくれないだろう?」
ドキッとした。玖蘭さんの一字一句に、一喜一憂してしまう。そんなことさえこの人には、見透かされていると思うけど。ああ、ずるいって言葉が一番似合う人。
「僕を……選んでほしいな」
優姫が一番大切だと言いながら、私に甘く囁く彼はヴァンパイアというよりも悪魔に近い。小悪魔なんて可愛いものじゃない。
「そういう誤解を生む言葉、やめて下さい……っ」
「頬が赤いね。僕はテラスにいるから」
玖蘭さんは余裕そうな笑みを見せて、そのままテラスへと一人出ていってしまった。他の女子生徒達は玖蘭さんがテラスに出たことを知らないのか、キョロキョロしながら辺りを見回している。