第5章 gift
先生達と風紀委員の指示の元、私達はクラスで纏まって会場入りをする。特別な挨拶も決まり事もないため、会場についた人達からそれぞれ自由な時を過ごす。えっと、確か舞踏会の時間だけは指定があった気が……。
「珠紀、真剣にフラワーギフトデイのスケジュールチェックだなんて、よっぽど花を贈りたい相手がいるんだね」
「え?」
顔を上げれば、玖蘭さんが胸元に赤い薔薇をつけ、いつも通りの柔らかい笑みで立っていた。
「く、玖蘭さん……!」
「そんなに驚かなくてもいいと思うけど。珠紀はその花、誰かに贈るの?」
「あ……っ」
玖蘭さんの視線は、私が手にしている一輪の白薔薇。彼の視線から遠ざけるように、花を後ろ手に隠した。
「少なくとも、僕に贈る気はなさそうだね」
「そ、それは……」
だって、誰かに贈ろうだなんて元々思って持ってきたわけじゃないし……そう言われると、なんだか持ってこなければよかったなんて思ってしまう。
意地悪をしようなんて、この人は微塵も思っていないだろうけど。
「珠紀」
玖蘭さんは人目も気にしないで、白い手を私へと伸ばして頬をそっと撫でる。自然と緊張する。彼の与えてくれるぬくもりに、神経が集まる。ぴくりと反応を示せば、玖蘭さんの目が細められた気がした。
徐に玖蘭さんは胸にさしていた赤薔薇を手にして、私の髪へとさした。
――ん……?