第4章 puzzlement
「ねぇ、珠紀。出会った時から思っていたことを聞いてもいいかい?」
「なんですか……?」
「君は一体、何者なんだい?」
「……っ」
どくんっ
心臓が高鳴る。嫌な音がした。
「僕らと近い匂いがするのは、気のせいなのかな……?」
「……気のせいに決まっているじゃないですかっ! 変なこと言わないで下さい!!」
「何をそんなに怒っているの? 僕はまだ何も言ってない」
「……っ」
立ち去る為に、早急に玖蘭さんの傍を離れて駆け出そうとする。けれど、虚しくも彼に腕を掴まれてそれは叶わない。
「離して……っ」
「どうして君みたいな子を普通科に置いているのか、僕には到底理解できないけど。これだけは覚えておいて……優姫が君を大事に想っているから、僕もそうしているだけであって、僕が心から大切に想っているのは優姫ただ一人だけ。彼女にもし、危害を加えるようなことがあれば……」
彼を一瞥すると、ちらりと口元から見えた牙が視界に入った途端、無意識に強く腕を振りほどいた。ようやく解放され、今度こそ引き留められることなく私は走り去った。
木々を掻き分け、あんなにも心地よかった風は気持ち悪い程に生暖かく感じた。
玖蘭さんの口から、優姫のことを聞くと心がざわつく。けれどその理由をいくら探ってみても、どうしてもわからない。なら今はまだわからないままでもいい。
頬にはまだ、玖蘭さんの手のぬくもりが残っているような気がした。