第34章 happy ending 千里√
「千里……っ、ありがとう……ずっと私を守っていてくれて、ありがとう」
涙が頬を伝う。ぎゅっと離れない様に、離さない様に千里を抱きしめる。もう絶対に忘れない。どんなに辛い出来事も、痛みも全て受け止めて生きていく。
「二人の本当の再会という記念すべき瞬間のところ、申し訳ないんだけど少しいいかな?」
「……っ! 黒先生?」
黒先生は「感動的だねぇ!」と言いながらにこにこと近付いて来る。千里は私を抱きしめたまま、警戒している様子で黒先生を見る。
「黒先生……今更、俺達に何か用?」
「用っていうか……素敵な愛の形を見せてくれた君達に、渡し物ってやつだよ」
黒先生は透明な小瓶に入った赤い液体を揺らしながら、私達の前にそれを差し出す。今度は一体何を渡すつもりなの?
「これは沙耶の血液。珠紀ちゃん、君は今なんとか沙耶を押し退け表に出て来ることが出来たようだけど……その発作の間隔は徐々に短くなっていくだろう。そう、つまりナルコレプシーを発症する間隔が短くなることと同じだ」
「……珠紀から沙耶が出てきたのは、そもそも黒先生のせいなんじゃないの?」
「坊ちゃん……僕がわざわざそんなことをして、何のメリットがあるのかな? ないよそんなものは。それはね、偶然ってやつなんだよ」
「どうだか……」
「君が信じようが疑おうが勝手だけどね、反発する組織を抑えるのって簡単じゃないんだよ? 沙耶の血を飲めば珠紀ちゃんは完全な変異型純血種となり沙耶の人格は消え失せるだろう。その力の全ては、君のものとなる。別に力に興味がなくとも構わない、飲めば沙耶に支配されるかもしれない不安からは解放される」
どうする? と言いたげに黒先生は小瓶を揺らした。