第34章 happy ending 千里√
人生はまるで階段のようだ。誰かがそう言った。
私達は無数の選択を繰り返しながら、それが最善だと信じて生きていく。その選択で後悔することもあるかもしれない。もう一度やり直したいと、泣き叫ぶかもしれない。
けれど残念ながら、人生はゲームではない。選択肢で好感度を上げて、ハッピーエンドを目指すゲームでもない。武器を取って悪と立ち向かうゲームでもない。銃を持って戦場を駆け抜けるゲームでもない。レベルを上げて魔王と戦うゲームでもない。
ゲームじゃないからこそ、人は迷う悩む間違っていく。これでいいの? と自問自答する。私達に立ち止まっている暇はないだろう。時間は過ぎていく、無限ではないのだから。
私達には心がある。数式でどんなにいい結果を導き出したところで、想いの前では全てが砂のように指の隙間から零れて消えていく。
愛している。貴方を。
一度きりしかない人生の中で、正しさも間違いも受け止めて私達は選択を受け入れる。
たったひとりの貴方。
私はこの選択を、信じていく。信じて……生きていくんだ。
「……なん……で? 珠紀……」
私の手の中にあったナイフは、もうない。足元に落ちたナイフの音を聞いて、私は目の前にいる彼をぎゅっと強く抱きしめた。