第4章 puzzlement
「眠れなかった?」
「いえ……眠っていたんです。でも、変な夢を見て……起きてしまいました」
悪夢とは違う、でも……思い出したいような、何も知りたくないような。そういう夢だった気がする。所詮は夢だもの、現実の私とはたいして関係はないと思うけど。
「怖かったのかい?」
「そういうのじゃないんです。悪夢じゃないけど、いいとも言えないようなものです」
「とても曖昧だね、それは」
「玖蘭さんの方こそ、授業はどうしたんですか?」
「ん? さぼり」
玖蘭さんでもサボることってあるんだ……。意外だなぁと見つめると、視線に気付いた玖蘭さんがふんわりと笑った。花のように。一瞬、ぎゅっと心臓を鷲掴みにされた気がした。
玖蘭さんの手が、私の髪を優しく撫でる。
「一人でこんなところまで来てはいけないよ。夜は、危ないのだから」
「はい……」
よし、よしと撫で続けるその手が、あまりにも心地よくてこのまま眠ってしまいそう。
「珠紀は、僕のこと……怖くないの?」
「え……?」
夢の声と一瞬、重なった気がした。訪れた睡魔は玖蘭さんの言葉と共に、弾け飛んだ。
「僕らの正体、わかっているでしょ? 僕らが……”ヴァンパイア”だってこと」
心地よい感覚が去り始め、突き付けられた現実に顔をしかめた。この人の口から、聞きたくなかったのかもしれない。何かの間違いだと、嘘なんだと何処かで思いたかったのかもしれない。