第33章 love 千里√
「普通科だ」
「ん……?」
思わず声が漏れた。彼女がゆっくりとこちらを向いた時、一目でわかった。彼女は、あの珠紀なんだと。何処か面影を残した優しい瞳に、微笑んだ顔なんて……あの頃とあまり変わっていない。
「どうも」
彼女が先に、俺に挨拶をしてきた。
「こんな場所でお昼ご飯食べてる人、俺初めて見た」
「支葵、私先に帰っていい?」
「あ……うん。いいよ」
莉磨がいたこと、すっかり忘れてた。空気を読んで察してくれたのか、俺と珠紀の二人きりにしてくれる。
懐かしいな……こうして、珠紀と二人きりになるとあの頃の続きみたいで何処か変だ。
なんだかんだ理由をつけて、珠紀の卵焼きを奪い取る。あ、美味しい。きっといいお嫁さんになるね。
彼女は俺を知らない、だから俺はまるで今初めて会ったかのように自己紹介をした。その瞬間だけ、気持ち悪く思えた。俺は幼い頃から珠紀を知っているのに、でも珠紀は知らない。これはこれで……結構堪えるものがある。
「ねぇ、珠紀」
「何……?」
「俺、珠紀と一緒にいる時間……好きかも」
「え?」
不意に口から出ていた。でも本当のことだよ。俺は……ずっと、珠紀といる時間が好きなんだから。