第33章 love 千里√
「人間の身体にヴァンパイアの心臓、確実に反発する力が働く。その代償に……彼女はナルコレプシーを引き起こすだろうね。自分であって自分ではない何かに、ただ少しずつ支配される……やがては彼女は選択しなければいけなくなる。人間として抗い続けるか、ヴァンパイアの本能を受け入れて純血種に変異するか。どちらにしても、助かった先にあるのはヴァンパイアと人間のハーフとしての人生だ」
「……」
「坊ちゃんはそれを、彼女に与える覚悟はあるのかな? きっとすっごく憎まれると思うよ?」
「それでも……いい」
例え全てを知った珠紀に、俺が殺されることになったとしても。俺はそれでも……珠紀に会いたいんだ。もう一度笑ってほしい、俺の傍で……それが叶わないならせめて、誰か愛しい人の傍で笑っていてほしい。
俺じゃない誰かと結ばれたって構わない。生きて……いてくれるのなら。
「俺は、珠紀のことが好きだから……どんな運命も受け入れる」
「そう。なら彼女を連れて、僕と共においで」
血塗れの彼女を抱いて、俺は罪を犯す。これは許されない行為だろう。だとしても、珠紀の代わりなんてどこにもいないんだ。どこにもないんだ。
俺には……こうすることしか、出来ない。
手術は、無事成功した。同時に彼女は、病院で目覚める前の記憶を失うこととなった。当然俺のことなど……覚えてはいない。