• テキストサイズ

Bloody Signal

第33章 love 千里√



「ああ……それはもう、助からないね」
「……え?」


 不意に声を聞こえてきて、俺は勢いよく顔を上げた。そこにいたのは、白衣を纏い眼鏡をかけた男の人。この惨状を前にして、物怖じしない様子からするに、慣れているように思えた。それは彼が医者だということを……証明しているのだろうか?


「あっちでくたばっているのは沙耶か……。まったく、純血種ともあろうお方が。どうしてこんなことに……」

「お前は……ヴァンパイアなのか?」

「そうだよ、坊ちゃん。俺の顔、忘れちゃった? 身体の弱い貴方を、定期的に看ていた僕のことを……」


 俺は身体が弱かった。少しずつ運動をして、改善はしていってはいるがそれでも定期検診は欠かせなかった。その時によく俺を看ていた医者、奴は……黒という。黒先生と呼べ、なんていつも言っていた気がする。

 全然気付かなかった。ヴァンパイアだったのか。


「ヴァンパイアを看るのは、普通にヴァンパイアでしょ坊ちゃん」

「そうだね……黒先生」

「うんうん、思い出してくれて嬉しいよ」


 黒先生は珠紀の状態を看ると、うーんと唸り声を上げた。きっとこの傷じゃ、助からないということなのだろう。


「君、その女の子の何なの?」

「え……? 友達?」

「人間と、ヴァンパイアなのに?」

「……っ」

「ヴァンパイアの君が、人間のその子と友達? あひゃひゃっ、そりゃ傑作だ」

「それでも……珠紀だけなんだっ、俺を怖がらないで……ずっと、笑いかけてくれたのは」

「ふぅん……それは君がヴァンパイアだなんて知らなかったからじゃないの? 都合のいいように解釈して、彼女に固執しているのかい?」

「それでも……! 俺にとっては、初めてちゃんと……接してくれた人なんだ」

「あっそう」


 黒先生はしゃがみ込むと、いきなり俺の頭を撫でてきた。こんな時に何をするんだって思ったけど、珠紀がいない……それだけで俺はこんなにも簡単に絶望出来る。もうなんでもよかったのかもしれない。

/ 276ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp