第33章 love 千里√
「物騒なことを考えていそうな少年ね」
「……」
どうやら相手も俺が何者か気付いたらしい。それもそうか、純血種にとって人間かヴァンパイアなのかそんなものすぐにわかってしまうか。俺は警戒心を持って、一歩その女へと近付いた。俺みたいな子供がどうにか出来る相手じゃないのはわかってる。だからせめて、刺激しない様に。
「私は沙耶。珠紀、彼は?」
「彼は千里っていうの。あのね、ついさっきそこで知り合ったの」
「そう……。千里君、珠紀はこの通り森の奥に住んでいるからお友達がいないの。もしよければ、仲良くしてあげて頂戴ね」
「千里! 今日はね、姉さんしかいないけどお父さんとお母さんも帰ってくると思うから、家で遊ばない?」
「いや……遠慮するよ」
「そっか。しょうがないね」
「そうだわ、なら二人でこの近くにあるお花畑に行ってきたらどう?」
「そうだ! 千里、ねっ! 行こう?」
差し伸べられた小さな手は、まるで天使のようで……俺は気付けばその手を取っていた。
彼女と共に向かった先は、綺麗な花畑。みたことのないようは、美しい世界に俺は思わず息を呑んだ。七色に光り、太陽を浴びて見る人によっては天国のようだなんて感想を述べてしまいそうだ。桃源郷にも近いものがあるかもしれない。
珠紀は俺の手を引いて、その中心まで走っていく。彼女の手は温かい。こうして誰かと触れ合うことさえ、俺にはなかったから……凄く変な気分。
「千里、はいっ。これあげる」
一輪、花を手折ると俺の髪に珠紀はさす。男に花をプレゼントっていうのもなぁ……と思っていると嬉しそうに彼女は話し始める。