第32章 true 千里√
「俺も……好きだよ」
千里の声が、入ってくる。足元が真っ暗になって、見えない闇に突き落とされていくような気がした。やめて……それは私じゃないの! 姉さんに……姉さんに向かってそんなこと言わないでよっ!!
そう思った時、私はどうしても千里を姉さんに渡したくないと思った。どうしてなんだろうね? そんなこと……誰にも思ったことがないのに。千里が好きだという相手は、自分だけであってほしいだなんて……思った。
「珠紀……」
千里が私の頬に手をあてる。近付く顔に、私は今度こそ何も見たくなくてぎゅっと目を閉じた。
「あのさ、俺を馬鹿にするのも大概にしておきなよ」
「……お前っ……その瓶を返しなさいっ!!」
はっとして、私は目を開けた。
「やっぱり。あんた、珠紀じゃないでしょ……? 俺が気付かないとでも思った? 俺はね、あんたよりよっぽど珠紀を知ってるし、珠紀のことが好きなの。俺が好きなのはあんたじゃない……珠紀だよ」
「ふんっ……ガキが。今更気付いたところで、珠紀はもう表には出てこれないのよっ!!」
「あんた……沙耶って人でしょ」
「そうよ。私を知ってるのね? それもそうよね、私はこれでも純血種だったもの……ヴァンパイアの貴方なら知らないはずもないってわけね」
「まぁ、それだけじゃないけどね……」
いつの間にか、私は手にナイフを構え千里と対峙していた。勿論そのナイフは、きっと姉さんが私の知らない間に忍び込ませていたに違いない。