第32章 true 千里√
「千里は……まだ何か知っているのかな」
――どうして生きていたのか、は?
彼は私にそれを問うていた、一見すると気にも留める必要のなさそうな問いだけど……それにしてはえらく真剣だった気もする。私はまだ全てを思い出してないってことはわかるのに……酷くもどかしい。
「千里に会って聞いたら、教えてくれるのかな」
いや、とりあえず学校に行かなくちゃね。私は念のために瓶を鞄の中に入れて、部屋を出た。
いつもならあまり気にならない太陽も、今日ばかりは目が眩む思いがする。千里や玖蘭さん達は朝起きる度にこんな思いをしているのだろうか? なんて不意に考えてみたり……。
「あれ……」
足元がふらふらする。今日は間隔が短い気がする……おかしいな、こんなことあったっけ? なんとなく無意識に鞄から瓶を取り出し、一粒口に含む。途中で飲み物を買って、それで流し込む。だんだんと、もっと違う感覚が私を支配し始めている気がして……足を止めた。
「……」
これは違う。自分の足で立っているはずなのに、だんだんその感覚が遠のいていく気がした。自分の意思が、何かに鷲掴みされて操作されていくような……これはナニ?
「くくっ……」
私が、笑う。
そんなことを自分で思うなんてどうかしてる、これはおかしいんだ。それを理解した時……私が口を開いた。私の意識はあるものの、感覚はもう既に曖昧な境界線へと溶けていた。