第31章 shade 千里√
「千里……私……」
「言いたいことはわかってる。でもね、これは珠紀が元々持っていたものだよ。君が思い出した記憶の先にある、君の逃れられない現状。もう君は人間なんかじゃない。記憶を失うことで……君は少なくとも、普通の人間のふりをして過ごすことくらいは出来たかもしれないのに」
千里は優しく私の頬を撫でる。
「俺が珠紀の血を吸えば、自分がどうであったかを思い出すことはわかっていたんだ」
「え……? それって、私が望んだから……思い出したいって望んだから、千里は……」
「そうだね、結果としてはそうなのかもしれない。でも俺は、ずっと思っていたよ。珠紀の血を、啜りたいと」
「……っ」
「俺が血を吸う前に言ったことは、嘘じゃないよ。でもそれを珠紀は、受け取る必要はない」
その言葉と共に、彼に何を言われたのかを思い出す。
――珠紀……好きだよ
「千里! 私は……っ」
「俺はね、珠紀が幸せならそれでいい。生きて、幸せになってくれるなら……なんだっていいんだ」
「本当に千里は、それでいいのっ!?」
思わず私は、千里の手を掴んで問い詰めるように彼へと尋ねる。そんなこと言わないでほしいと思った、好きだと言っておきながら受け取らなくていいだなんて……それじゃあまるで、千里は元々私の返事なんて期待してなかったってことでしょ?
私が千里をどう思っているかなんて、どちらでもいいってことでしょ!? そんなのって……。