第30章 rewind 千里√
「そうして時が経って私は大人になった。婚約して、子供を身ごもったけど事故で失ったわ。夫ごと……何もかも。事故の後遺症で、私は長時間起きていられなくなった。起き上っていると……身体の芯が痛んでくる。これは報いだと思った。この想いに嘘をついたせいなのだと」
私は何も言えない、ただ……姉さんの言葉に耳を傾けていた。
「そして残酷にも森の奥で静かに暮らす、あの人に再会した。私が何もかもを捨てて、死に場所を探している時に。これは何の奇跡? って思ったわ。本当に、とても嬉しかった! だって私は死ぬほど彼に会いたかったんだもの! 会ったら今度こそ言おう、この気持ちを伝えよう……好きだって、伝えるんだとね。だけど現実はやはり残酷だった」
姉さんは真っ直ぐに私を射抜いて、苦しそうに言葉を紡ぐ。もういいよと、言ってしまえたらよかったのかな? ううん、でも今彼女の話を最後まで聞かないまま殺されてしまったら、彼女の本当の気持ちを知る人物がいなくなってしまう。
しっかりと最後まで受け止めて、そして……生きなくちゃ。姉さんと。
「彼は……既に結婚していた。そう、あの最後の日に私に彼が好きなんだと堂々と告白した貴方のお母さんとよ! これが……冷静でいられる? いられるわけがないっ。驚いたと同時に、私は絶望した……。辛くて苦しくて、もう子供までいるのを知って……妬ましかった。彼女は、私がほしかったものを全て持っているのだと。持っていて……そんな身で、私を見つめるんだ」
姉さんが不意に、私の両肩を掴む。何をされるのかと恐ろしくなって、びくりと身体が反応した。姉さんは……大粒の涙を流して、私を見つめた。