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Bloody Signal

第29章 trigger 千里√



『それもそうよ。だって貴方にとって、あの時の過去は忘れたいに決まっているもの。そうでしょ? そうじゃなかったら、なんだというのかしら。随分ここまで来るのに、時間がかかってしまったけど……でもね、貴方だってこのままじゃいられないでしょ』


 どういうこと……ですか。


『私に貴方の両親が殺されたから、そのショックで貴方はあの時の記憶を忘れているって思っていたけど、違うのね』


 殺した……? 何の冗談ですか? や、やめて下さいそんなこと。


『貴方が本当に忘れたかったものは……何? 誰を、忘れてしまったの?』


 私は……私は、あの時のことだけを……忘れて。


『嘘。じゃあ、あの時の出来事……もう一度、思い出して』


 彼女が私の方へ、手をかざす。途端、再び目の前が暗くなった。





 ◇




「……はあっ、はあっ」


 額に汗が滲む。呼吸も乱れる。地面を蹴り上げるたびに、揺れる髪の毛が頬に張り付くのが鬱陶しくて堪らなかった。


「んっ、はあっ……はあっ」


 心臓が煩い。それでも、足を止めるわけにはいかない。もつれそうになる足をなんとか動かして、薄暗い森を駆け抜ける。


 夕陽が沈む、夜が落ちてくるみたい。


「……は、んっ、はあっ」


 信じたくない、信じちゃいけない! 頭ではそう思っているのに、ちゃんと私の心は理解してしまっている。

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