第28章 kiss 千里√
「珠紀が、足りない。欲しい」
「なっなっ……何を言って……っ!」
「駄目……?」
駄目って何が? 何が駄目なの? というか何をするつもりなの? わかんないっ、恋さえまだ知らない私がこんなの……何も、知らないっ。
「だっ駄目!」
「……どうしても?」
「どうしても!!」
「そう……残念」
千里はまったく残念そうな表情を見せないまま、ただくすっと笑って意外にもあっさりと私の上から退いた。
「千里……?」
「もうすぐ昼休みが終わるね。戻ろうか」
何事もなかったように、彼は私へと手を差し伸べる。半分放心状態のまま、その手を取って立ち上がった。一瞬の夢でも見ていたのだろうか? 私が立ち尽くしていると、千里が声をかける。
「いつか駄目じゃないって、言わせてあげる」
「な……っ」
彼の言動全てに、一喜一憂してしまう。感情が揺さぶられて、冷静でいられなくなって。行動の一つ一つを、目で追ってしまう。彼の瞳と目が合うと、無性にどきどきして……心臓が煩くなって。会う度に嬉しい自分がいて……あれ?
「ほら、早く行こう。遅刻したら怒られるのは珠紀だよ」
「あ……う、うんっ」
この感情を、人はなんと呼ぶんだっけ?