第28章 kiss 千里√
「あ、ご、ごめんね……っ。なんかつい、触れたくなっちゃって」
「……。俺に、触れたいの?」
千里の顔が急に近付いてくる。こんなに近くで、千里を見つめたことがあっただろうか?
「せん……っ」
「キス、してもいい?」
両肩を掴まれて、びくりと身体が跳ねる。何を言われたのか、頭の中からすっぽり抜け落ちてしまってその場で固まってしまう。
「俺も珠紀に触れたいって思っちゃった。大丈夫、今はこれで我慢するから」
「……っ」
頬に柔らかい感触が残る。すぐに千里が、私の頬にキスをしたのだということがわかった。私が鯉みたいに口をぱくぱくさせていると、千里がくすっと笑う。
「唇が良かった?」
「……だっ大丈夫!! 大丈夫だからっ!」
「珠紀、可愛い」
「千里だめ……っ」
額、頬、指……千里が私へと次々にキスを落とす。もう心臓は飛び出してしまいそうなくらいに、鼓動が早くなって触れられた場所が熱い。熱くて堪らなくて、ぎゅっとそれとは違う胸の苦しさを感じた。
私の手を掴んで、千里は手の甲へとキスを落とす。顔も熱くて、どうしたらいいかわからなくて……ただ彼の行動をじっと見つめることしか出来ない。
「ねぇ、足りないんだけど……どうしたらいい?」
「たっ足りないって……何が?」
「何って……」
ゆっくり肩を押されて、草花の上へと押し倒される。初めてこんな状況になって、千里がすぐ上にいて全部が現実じゃないみたいでわけがわからなくて。いや、冷静になれって方が無理だ。そんなの……無理だよ。