第28章 kiss 千里√
「まぁ、俺の場合は暫くモデルを続けるのもありなのかなって思う」
「モデル業は楽しい?」
「楽しいっていうか……うーん、まぁ……カメラのレンズを眺めていると、俺もそのレンズ越しの世界を見たいって思う。そこから見えて、写真という一枚のフィルムの中に閉じ込められた俺は、どんな顔をしてるんだろうって思ったりはする」
「哲学だね」
「そう? レンズ越しに見える世界は、ずっと綺麗だよ。ガラス玉の瞳で世界を見るのとでは、全然違う」
「そうなんだ……」
千里のモデル業に関する話は、今日初めて聞いたように思う。そもそも彼がモデルをしていたことを、初めは知らなかったし……興味がなかったからなぁ。でも少しでも千里のことを知りたいって思うなら、私はもっと興味を持つべきなのかな。
「あ、そうだ」
「珠紀?」
私は少し離れた場所に咲いている花を見つけて、駆け寄る。断片的に残っている過去の記憶を頼りに、花を編んでみる。そうして出来上がったのは……。
「よし、出来た。千里見て! 花の冠」
「……!」
思わず綺麗な花が咲いていたから、冠を作ってみたくなった。千里の元へ戻ると、そっと彼の頭へと冠を乗せた。男の子に花の冠を贈るなんて、怒られちゃうかな。
「千里にあげる」
「……いいの? 本当に、貰っていいの?」
「ん? うん。いいよっ」
笑顔で答えれば、千里は本当に嬉しそうに笑って……気付いたら彼に抱きしめられていた。