第28章 kiss 千里√
「食べていい?」
「どうぞ」
小さく「頂きます」と口にして、サンドイッチにかぶりつく。ん……! 美味しい。千里が料理というか……そういうことが出来るとは思っていなかったので、凄く意外。でもこれはいい意味で裏切られた。
「美味しい!」
「ほんと? よかった。得意って程じゃないから……少しだけ心配だった」
「そんなことないよ。出来るだけでも十分」
「あのね、出来るのと上手いのはイコールじゃないんだよ」
「それ、私もよく言うよ」
「珠紀が作ってくれるお弁当は、美味しい」
千里が小さく笑う。それが何故か急に照れくさくて、隠すようにサンドイッチを頬張った。
「そういえば、珠紀って進路とか考えていたりするの?」
「え……? 進路、か。まだあんまり」
「そうだよね。寮長から卒業後のこともちゃんと考えておくようにって、言われたんだ。でも今から卒業後のことなんて、俺は考えられないかな」
「私も。今を有意義に過ごすことで、精一杯」
明日の事なんてわからないのに、それ以上先のことなんてもっとわからない。いつかは考えなくちゃいけないことだし、いずれは此処を去っていくのだけど……それでも今はまだ、この時間のことだけを考えていたい。