第28章 kiss 千里√
あの日と同じ、中庭へとお弁当を持って訪れる。既にそこには千里の姿があって、相変わらず本を読みながら黄昏ている様子だった。
「千里! 来たよ」
「あ……いらっしゃい。って言うのも変な話しだけど。隣、座って」
千里の隣に腰掛けて、お弁当を見せる。
「ん、これもお約束通りだよ」
「卵焼きは?」
「入ってるよ」
蓋を開ける。千里のリクエストである卵焼きに、あとは定番物を揃えてみた。無難だし失敗も少ないし、まさに鉄板メニューの安心感は何にも代えられないものがある。千里はいつの間にか箸を手に、卵焼きへと手を伸ばした。
「待って、頂きますは?」
「……あ。頂きます」
思い出したように手を合わせて、改めて千里は卵焼きを掴み、一口食べる。美味しいだろうか……? 一応味見はしてきたから、不味くはない……はず。
「うん、美味しい。あの時食べた味と、同じだ」
「それは作っている人が同じだからね」
私もお弁当へと手を伸ばした。千里はいくつかおかずを食べた後、ごそごそと何やら袋を取り出した。
「じゃあ、俺からは特製サンドイッチね」
「え!? 千里って料理出来るの……?」
「え、一応人並みには出来るけど」
包みを一つ、渡されて私はそれを受け取る。包みを開けてみれば、美味しそうなサンドイッチが顔を出す。