第26章 dear 千里√
零は幼い頃にヴァンパイアによって、家族を奪われたんだ。そんな彼に良し悪しを問うなんて、残酷なのかもしれない。
私が零の立場だったとして、それでも千里のことを……いい人だって言えるかな?
「とにかく、お前は急に倒れる可能性がいつも付き纏ってるんだから。あんまり一人になるなよ」
「いつも心配してくれてありがとう」
「……当然だろ」
零の言ってくれる当然が、凄く凄く私には有難いことなのに。ちょっとだけ照れくさそうに答える零は、本当に誰よりも優しいんじゃないかと思った。
「もう行くぞ、学校」
「あ……うん」
彼の後ろを着いていくように歩いていく。優姫は一人で行ったのかな?
「珠紀」
「ん……?」
零がちらりと私の方へ振り返る。
「お前さ……いつまでもこんな時が続けばいいなんて、そんな甘い事思ってないだろうな?」
「……甘いって、どういう意味? 私はずっと続けばいいなって思ってるよ」
「ずっとなんて、ありえないだろ」
「そうかもしれないけど。信じるのは自由でしょ?」
「変わらないものなんてない。変わっていくから、人は生きていけるんだ」
「そんなこと……ない」
私の時は、いつの間にか針を止めてしまったように動かない。昔の記憶を失って、世界は閉ざされてしまったように思えて。外れたピースを求めるように、今にしがみついていく。思い出を作ることで、なくしたものの代わりにしていくように。
そんなつまらない思考を、零は見抜いているとでもいうのだろうか?