第26章 dear 千里√
次の日の朝、学校はいつも通りに始まる。昨日のイベントごとが、まるで嘘みたいに。制服に着替えて、部屋を出ようとした時にノックの音が聞こえる。
「珠紀? 朝にごめんね、迎えに……というよりかは、外で零が珠紀のこと待っててさ。行ってあげてくれない?」
「私のことを……?」
零が? 一体なんだろう……。理由もわからないし、今日迎えに行くとも特に聞いていないし。零のことだから気まぐれというやつなのかもしれない。
優姫に言われるままに、外に出て寮を出る。すると確かに零が何故か溜息をつきながら、ぼうっと木に凭れ掛かっていた。
「ごめんね、待った?」
「ああ……珠紀か。朝から悪いな、呼び出したみたいになって」
「ううん、気にしないけど……何かあったの」
「何かというか……」
私が首を傾げると、零は少し迷った様子で…小さく「まぁいいか」と呟いて私へ向き直る。
「昨夜、倒れたって聞いた。大丈夫なのか? 倒れた後、どうしたんだ?」
「あ……えっと、千里に助けてもらったの! それで保健室まで運んでもらったみたいで……起きるまで待っててくれて。それで、千里に寮まで送ってもらって無事に帰宅した感じだよ」
「千里って……支葵千里のことか?」
「うん、そうだけど……」
「忘れちゃいないだろうな? あいつは、お前もよく知るヴァンパイアなんだぞ。あんまり気を許すな……」
「でも……千里はいい人、だよ?」
そう言うと零は明らかに不愉快そうに、眉間に皺を寄せる。たぶん零からすれば、ヴァンパイアに良いも悪いもないって思っているのかもしれない。それはそうなのかもしれない……特に彼の場合は。