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Bloody Signal

第25章 calm 千里√



「もう本当に夜だね……。危ないからちゃんと送るよ」

「そんな……気にしなくていいのに」

「駄目だよ。俺達は、珠紀達とは違って……血を求めるヴァンパイアなんだから。他の夜間部の生徒がうろついていたら危険でしょ」

「……」


 そうは言うものの、じゃあ目の前にいる千里だって同じくヴァンパイアだ。それは……勿論事実のはずなのに、そんな彼に守られるように寮まで送られる私は傍から見れば無防備なのだろうか?

 でも千里は今のところ、一度も私に酷いことをしたことはないし、血を吸わせろと言ったこともない。初めて出会ったあの時も……無邪気に卵焼きをねだる姿は寧ろ可愛いとさえ思えた。


 あんな穏やかな時間を、もっと彼と……過ごせたらいいのに。


 校舎を出る途中、見知った人が前方からやってきた。


「今からどこへ行くところなのかな?」

「玖蘭さん……」


 玖蘭さんは私達に微笑みかけると、一瞬だけ千里を鋭く睨んだ気がした。けれどちらりと様子を伺ってみた千里は、いつも通りのポーカーフェースのままだった。


「珠紀を寮まで送るんです。会場で気を失って、今まで保健室で介抱していました」

「彼女には何もしていないだろうね?」


 探るような玖蘭さんの視線。私が弁解のために口を開こうとすると、千里の手が一層ぎゅっと握られたことで留まってしまう。何も言うなと……言っているのだろうか? 私より先に、千里が口を開いた。


「俺は珠紀をけして、傷付けたりしません」

「わからないよ? だって君も……紛れもない、ヴァンパイアなのだから」

「玖蘭寮長……言いたいことはわかりますが、俺は絶対に珠紀を傷付けません」

「……そう。じゃあ、気を付けてね。珠紀」

「あ……はい」


 千里に手を引かれ、緊張のまま玖蘭さんの横を通り抜ける。すれ違い様、玖蘭さんが小さく「油断しないでね」と私に向けてかけられた言葉が……纏わりつく。忘れたい、そう思った。大丈夫、千里はきっと……大丈夫。

 明確なものは何一つなかったけど、それでも私は信じている。


 千里は……何もしないって。

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