第1章 call
「……んっ」
「起きた? 本当に、相変わらずお寝坊さんだよね。珠紀は」
「優姫……おはよう」
見慣れた天井、見慣れた同級生の顔。私はそこで、安堵した。
掠れた声で発すれば、ベッド脇に置いてあった水差しを手に、グラスに水を注ぎこむ優姫の姿が視界の端に映る。
彼女は黒主優姫。私の、唯一の友達。
「はい、水」
「ありがとう……」
身体を起こしてグラスを受け取る。冷たい……。喉を通る水の冷たさ、全身に行き渡る。寝ぼけていた脳も活動を始める。そうか、朝……か。
「ほら、ぼうっとしてないで学校に行く支度をしなくちゃ!」
「ああ……うん」
部屋の隅にかけてあった制服を投げられる。優姫は「ぱぱっと着替えて出てくること!」と私に強く言うと、一度部屋を出ていく。
私は制服を眺めながら、ようやくベッドを抜け出した。
カーテンの隙間から差し込む太陽の光が、容赦なく私を照らす。ああ、眩しい。制服に着替えると徐に固くカーテンを閉め直した。
昨日見た夢はなんだったんだろう?
考えてみるけれど、夢って起きて暫く経つと案外ぽっかりと忘れてしまうもので、それと同じで既に私の頭の中に、あの夢は残りかすさえなくなっていた。まったく、思い出せない。
「まぁ、いっか……」
どうでもいいこと。鞄を引っ掴んで扉を開ければ、仁王立ちしている優姫。