第23章 ache 零√
「初めて会ったお前は、何処か虚ろでもう今すぐにでも死んでしまいたい。そんな顔をしていた」
「そんな顔……してた?」
「してた。理事長に着いてくると決めた後も、心ここにあらずといった様子で、退院する当日にお前を見た時はまるで別人みたいで……凄く驚いたのを覚えてる」
「自分じゃ全然わからない」
退院する当日のことなら、今でも思い出せる。零は相変わらずの仏頂面だったけど、それでも小さく「退院おめでとう」と口にしてくれたのが、凄く嬉しかったんだっけ。
新しい家だと言われて入った黒主家は、私が思っていた以上に暖かくて心地よくて。こんな時間が続けばいいと思った。このまま変わらなくていいと思った。
「もうあの頃のお前と俺じゃないんだって、嫌って程思い知らされるよ。何も変わらないって……そんな日は訪れないって、思っていた」
それは私も同じだ。このまま何もかも時間を止めた様に、変わらない日常が延長戦のように続くのだと思っていた。でもそれは絶対にありえないことで、生きていれば成長もする、見えている景色も変わってくる。
その時の自分のままで、いられるはずもなかった。私が零を、好きになったように。人は変わっていくんだ。
「お前に幸せになってくれれば、それでいい……なんて、そんなの嘘だ」
零の手が私の頬を撫でる。