第23章 ache 零√
「錐生君と色々あった後から、調子が良さそうだね」
「……!」
「彼に吸血されることと、何か関係があるのかな? とても興味深いことだね」
「そんな言い方、しないで下さい……っ」
「ごめんね、君をいじめるつもりはなかったんだ。さあ、テラスまで行ってみたらどうだい? 君の望み人が待っていると思うよ」
「待っている……?」
「行けばわかることだよ」
玖蘭さんに背を押され、私は渋々テラスの方まで行く。扉越しのガラス窓から見えたのは、零が一人佇んでいる姿だった。
ゆっくりと扉を開ければ、零がこちらへと振り返る。
「そのドレス……ちゃんと着てきたんだな」
「うん……零が、くれたものだから」
零の方から私の一歩、また一歩と近付いてくる。なんだろう、私少し緊張しているかも。目の前まで彼が来ると、久しぶりに見る彼の嬉しそうな笑みが視界に入った。
「よく似会ってる……」
「ありがとう……。少し、恥ずかしいかも。そう言われると」
「別に照れることはないだろう。似合ってないって言われるより、ずっといい」
「そんなこと言われたらへこむ」
「なら、今から言ってやろうか?」
穏やかな時が、私達を包む。会場内にある喧騒が、まるで嘘みたいだ。何処までも遠く感じて、ここはまるで全てから切り離された世界のようだ。