第22章 Waltz 零√
『もう貴方がここへ来ることはないのでしょうね。だから最後に言っておくわ。私、貴方の両親を殺しているの』
『え……?』
『いいのよ、今は何もわからなくても。それに思い出す必要もない、思い出さなくてもきっと彼とは歩んでいけるわ。彼となら』
『沙耶お姉さん……?』
『ああ、でもこれは貴方に渡しておくわ』
赤い液体が入った小瓶を、沙耶お姉さんは私に渡す。戸惑いながらそれを受け取ると、彼女はゆっくりと薄れていった。
『待って……! まだ、聞きたいことが山ほど……っ』
『その小瓶の中身は、私の血。それを飲めば、貴方は今の貴方ではいられなくなるけど、彼と”同じ”にはなれるかもしれないわね。でももし、その血を彼に与えたなら……それも自由』
『行かないでっ!!』
消えていく世界の中で、彼女の声は確かに私に届いていた。
『ねぇ、珠紀。一緒に生きていくことの意味、もう一度よく考えてみなさい』
夢は醒めていく。
浮上し始める意識に、私はどう頑張って抗うことは出来ない。
目を覚ました時には、自分の瞳に涙が溜まっていたことに気付く。未だ何処か白昼夢の中にいる感覚を覚えつつ、手の中に何かがあるのを知る。
「これ……夢の中で出てきた小瓶」
振ってみれば、赤が揺れる。それをベッド脇にある棚の中へ、入れておく。
制服に袖を通せば、ふと扉をノックする音が聞こえてくる。