第22章 Waltz 零√
「だって、好きって気持ちも嫌いって気持ちも、常に胸の奥にあるもので……言葉って簡単に嘘を吐ける便利な道具だから。言葉に言葉を重ねても、そこに厚みが生まれるわけじゃないと思う。重ねれば重ねるだけ、上塗りされた気持ちは……どろどろになって嘘もほんとも溶かしてしまうと思うから」
「じゃあ……私はどうすればいいのかな。どうしたら、ちゃんと伝わるのかな」
「うーん……それって、そんなに悩むこと?」
「え……?」
驚いて千里の方を見れば、なんてことないみたいな顔をしていて、拍子抜けする。
「傍にいることだって、気持ちを伝える大事な手段なんじゃない? 触れることも、相手を信じてあげることも。そうやって自分から相手を受け入れて、自分から信じてあげて、向き合って。そして、最後は待ってあげることなんじゃないの?」
「……待つこと、か」
「うん。どんなに時間がかかっても、珠紀が諦めなければ想いはきっと、相手の心にも届くよ」
「……そうだね。うん、ありがとう」
千里の言葉は、不思議なくらい私の中へとすっと入っていった。確かに今の零にどんな言葉をかけたところで、逆効果なのかもしれない。
信じてほしいと思うなら、まず私から信じていかなくちゃ。受け止めていかなくちゃ。
いつか零に、私の想いが届くことを信じて。
「そうやって誰かに恋をして、一生懸命頑張ってる珠紀のこと、俺は結構好き」
「そう言われると、照れるかも」
「でもその分、珠紀に思われている人に嫉妬もする」
「え? そうなの?」
私が唖然としていると、千里はくすっと笑って再び本へと視線を落とした。なんだか少し照れているようにも思えて、そんな千里が可愛いだなんて不意に思ってしまう。たぶん本人には言えない。